ダメにする罠
この前、木馬亭で浪曲「鶴女房」を聞いた。有名な「鶴の恩返し」の話だ。
絵本でも読んだし、日本昔ばなしでも見たし、小学校の劇でも演じたことがあるので話はよく知っているつもりだったが久々に聞くと、あれこれ「え?」と驚いてしまう。
罠にはまって動けなくなっていた鶴を助けたところ、鶴が恩義を感じるまでは良いが、恩義を感じたので娘に化けて、主人公嘉六の嫁になろうとやってくるのだ。
扉を開けると突然に見知らぬ美しい娘がいて「あなたのお嫁さんになりに来ました」と言う。そんなのは罠だ。それこそ罠なのだ。
なぜするっとそれを受け入れてしまうのか。恐ろしい。
現代に置き換えて考えれば嘉六は「あ?マジで?よくわかんないけど、ま、いいか。じゃ、よろしくね!ラッキー!」くらいのチャラ男ではないか。
大音量の音楽を響かせて、金のホイールのアルファードを運転しているような男だろう。
そんな男なので、当然鶴の好意は無碍にされ、自らの羽根を抜き命を賭して織った反物が高く売れたのをいいことに「もっと織れ!」と暴力を振るうようになる。
調子に乗りやがって。
その昔、母が韓流ドラマに入れあげて、日がな「ヨン様、ヨン様」と身悶えていた頃、実家では父親が放置されていた。母はヨン様の映るモニターから顔も上げずに、仕事帰りの父に言ったものだ。
「おかえり、お味噌汁温めて食べて。納豆もあるから」
見かねた私が父のために味噌汁を温め、納豆をかきまぜてやっていた所、めんどくさそうにやって来た母は言った。
「ちょっと!納豆までかきまぜてやってるの?そんな優しさは男をダメにする!」
納豆をかきまぜたくらいで人がダメになるものか、と思うが母は譲らない。
「アンタは男を甘やかしすぎる!男をダメにする!」と細木数子の如く言い放つのだった。
考えてみれば、男の人っていうのは何かにつけてダメになりがちな生き物だ。
女でダメになる、甘やかすとダメになる、酒でダメになる、ギャンブルでダメになる、その他、母親、ストレス、テレビ、おっぱい、借金、宗教、恋愛、貧乏。
大人な意味では糖尿病やタバコでもダメになるのだそうだ。
こんなに罠だらけの世の中で、男の人は大丈夫かと心配になる程だ。
そういう事を思うと、やはり納豆をかきまぜたのは良くなかったのだろうか。
鶴女房の鶴も、嘉六を甘やかしてダメにしてしまったのだろうか。
他人事なので「恩義を返したい」心につけこんでDVなんてホントクズだな、あの嘉六、と憤りもするが、自分が鶴だったら「ほんとは優しい人だから!」と頑張るんだろうか。いやいやいや、それはダメだわ。ダメ男製造機だわ。
優しさや気遣いは男の人にとって、時に己の目方を見誤る罠にもなるのであろうか。
それならもう納豆はかきまぜてやらないし、鶴も自己犠牲なんてしてる場合じゃない。
ホントもう、いろいろ厳しい世の中ではあるけれど、男の人もどうぞ心を強くもって、ダメにならずに頑張って。
2014/02/16「ダメにする」改訂