よかれと思って
先日、お地蔵さんの苔が剥がされたというニュースを見た。
大阪・ミナミの繁華街にあり、「水かけ不動さん」で知られる法善寺(大阪市中央区)で、お参りする人らが長年にわたって水をかけ、生え育っていた石像のコケがはがされたことがわかった。寺側は「心が痛む」とため息をつく。はがした人物は警察を通じて寺に謝罪し、「少しコケがはがれていたのできれいにしようと思った」と説明したという。
詳細はわからないが、きっと剥がした人は「良かれと思って」したことなんだろう。
昔、実家の玄関ドアにはインドネシアかどこかの古美術の鈴が下がっていた。
団地の大規模改修の際、母は鳶職の若いお兄ちゃんたちに何かと世話を焼いていたが、そのお兄ちゃんたちが「良かれと思って」あの古美術の鈴をペンキで綺麗に塗ってくれたことがある。
お兄ちゃんたちは「あれじゃあんまりひでえから塗っときました!」と満面の笑みだったが母は密かに嘆いていた。「あの錆びて汚いところが魅力だったのに」と。
何年か前に騒ぎになったフレスコ画の修復失敗も「良かれと思って」なんだろう。
あのフレスコ画、今じゃ人気観光スポットらしい。
5年ほど前に国立博物館で、ガンダーラ美術の仏像のイケメンぶりに心を奪われた。
あれから何度かあのイケメンたちに会いに博物館へでかけ、いろいろ調べたくて博物館の売店で本も買った。
これとか、根津美術館の「ガンダーラの彫像」とか。それらによれば、ガンダーラ美術の特徴は下記の通り。
- ヘレニズム文化の影響を受け、インドに生まれた仏教の主題を西方の写実的な表現方法であらわす。
- 濃厚な西方的造形要素が特徴
- 古代初期を通して決してあらわされることのなかった釈尊の姿、すなわち仏像をはじめて創り出した
インドでは仏陀釈尊の表現はタブー視されていたが、西方の影響を受けた彫工たちは「作っちゃおう!」ってことになったんだろう。そしてそのことにより、従来のストゥーパ崇拝から仏像崇拝へと移っていったのだそうだ。
そうして生まれたイケメンは、あんなにもイケメンだったのに、中国に伝来後、おそらく中国人たちが「よかれと思って」しょうゆ顔に変えてしまったのだろう。「東洋美術をめぐる旅」には書かれている。
北魏時代の初期はガンダーラ風が残るが、5世紀後半に造られた雲崗石窟では、漢民族のような衣を着け、幾何学的な衣紋が刻まれ、中国化が進むのである。朝鮮半島、日本の仏像はその影響を受けて造られたため、ガンダーラ風は伝わらなかった。
伝わらなかったのか…。
知ってたけど。確かに伝わってないけど。伝わってほしかった…。
このお髭がなぜ、あんなナマズ髭にかわったの。
このパッチリ二重の瞳がなぜ半目にかわってしまったの。
ふっくらとした口元がなぜ、おちょぼ口になってしまったの。
まあでも、良かれと思ったんだろうな。当時の中国的イケメンだったんだろうな。
おお、それにつけても口惜しいことよ。