そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

米と味噌

CSで時代劇専門チャンネルを見ることはできるが、好きな番組が好きな時間に見れるわけではないので、アマゾンプライムビデオの時代劇専門チャンネルにも登録してしまった。
吉宗評判記の頃の暴れん坊将軍が思う存分見たいのだ。


そうしたら、あの1988年の年末時代劇スペシャル「五稜郭」も配信されていた。



懐かしい。子供の頃、年末の時代劇スペシャルは欠かさず見ていた。10年ほど前、友人が幕末小説にハマっていた頃、「五稜郭見て!今見るとまた最高にいいの!」と強く勧められたりもした。子供の頃見たとは言え、ストーリーなど全く忘れてしまっているので、新鮮な気持ちで見返している。


まだ物語の序盤だが、大政奉還後、彰義隊の残党狩りが激しさを極め、僧に変装した彰義隊の大塚霍之丞(船越英一郎)が榎本武揚里見浩太朗)の屋敷と知らずに逃げ込むシーンがある。そして台所を勝手に漁り、おひつを抱えて手づかみでご飯を食べ始める。

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榎本の妻・多津(浅野ゆう子)はその姿を見て、はっとしたように土間に降りる。


この時点で私は思っていた。「おにぎりでも握ってやるんだろう、または味噌汁くらい出してやるんだろう」


だがそうではなかった。

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多津は大塚の手の中の白米に味噌を塗ってやり、「ここは幕臣の家です。ご安心ください」と告げる。大塚は男泣きだ。


味噌か!
ここでは白米に味噌を塗ってやることが「ちょうどいい優しさ」だったか。


確かに突然人の屋敷に忍び込んだ不審者相手に、いくら事情を察しようともおにぎりまで握ってやる必要ないか。そんなのは出過ぎた優しさか。男をダメにするやつか。


脳裏に母の「あんたは男をダメにする」という言葉が蘇る。



そんな風に味噌の威力にやられて、なんとなしに眠れなかった昨夜、夜中についつい松平健が焼きおにぎりを作る動画を見てしまった。
いや、ただ、松平健の穏やかな声を聞けば眠りにつけるかと思っただけなのだ。



軽い気持ちで見始めたが、昨日は私にとって味噌の日だったのだろうか。焼きおにぎりに味噌で下味をつけ、さらに上に味噌を塗る。
松平健、愛知の人だもんなあ、味噌好きに決まってるよな…、と思ったが使用するのは仙台味噌らしかった。
もう朝は絶対に味噌の焼きおにぎりにしよう、と心に決めて、明け方眠りについた。


起きてから早速焼きおにぎりを作った。松平健のレシピではししとうを刻んでご飯に混ぜ、味噌も混ぜて下味をつけた上にオリーブオイルで焼くのだが、ししとうはないので、ネギを刻んで混ぜた。ごま油も入れたので、油はひかずにフライパンで焼いた。
「フライパンで焼いたほうが早いじゃない」という松平健の言葉に「そうよね」と強くうなづきながら。


そうして朝から焼きおにぎりを食べつつ、ああ、贅沢なことだよなあ、としみじみした。
白米に、味噌をちょっとつけてくれたなら、それだけでありがたいのだ。
一日に、玄米四合と味噌と少しの野菜を食べたら、人は雨にも負けず生きていけるのだ。


だのに、私は味噌だけの白米じゃちょっとね、とネギとごま油を混ぜ込み、さらにごまをふりかけた。お味噌汁と漬物もつけた。それでも「質素な朝ごはん」のつもりだった。
もしも私が飢えて他所様の家のおひつに手を突っ込んでいた時、そっと味噌など塗られたら、それで満足しただろうか。
え?これだけ?と思ってしまうのではないか。


白米に味噌を塗られて男泣きする、そういうものに私はなりたい。