そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

よそ者の味

f:id:dengpao90:20220228203050j:plain


学生時代はよく友人たちと、車でどこまでも出かけた。国道1号をひた走って、朝方大阪に着いたり、真夜中に新潟港にたどり着いたり。
そんな旅行の中でいつか「恐山に行ってみようぜ」という流れになり、ひたすら車で北上し、青森に着いた。


畑の真ん中にあるような地味な食堂で食べたお昼ごはんの汁物がものすごい塩辛さで、「ああ、青森はしょっぱいって言うけど本当にしょっぱいんだな。農作業があるからなんだろうな」と思った。

f:id:dengpao90:20220228203655j:plain:w400
秋田のきりたんぽ鍋


かつて銀座の秋田料理屋でアルバイトをしていた時、まかないで時々あれこれ食べさせてもらったが、やっぱり味がどれもしょっぱいなあ、と思った。特にきりたんぽ鍋のおつゆが肌につくと、痒くて痒くてたまらなくなるほどの塩気だった。

f:id:dengpao90:20220228204306j:plain:w400
仙台のしそ巻


仙台の友人が「食べてみて」と持たせてくれたしそ巻も、中の味噌がとてもしょっぱかった。


今の時代、取り寄せれば全国各地のものを食べることができるけれど、やっぱりその地元の味、育った味、各地での味噌や醤油の違いがあるよなあ、としみじみする。

f:id:dengpao90:20220228204713j:plain
横浜 大さん橋

中高の6年を除いては、ずっと神奈川で生きている。
旅先で、どこから来たのと問われ、横浜と答えると大概言われる。
「ああ、東京から」


正確には東京の隣だが、東京だと思うなら東京でいい。
「まあ、そうですね」と返事をする。
海外で「日本のどこから来たのか」と聞かれれば、面倒なので東京と答えた。どうせ神奈川といっても横浜と言っても通じないだろう。

f:id:dengpao90:20220228205527j:plain
川越

中学校1年生の時に神奈川から埼玉に引っ越した。西武池袋線の終点間際、新興住宅地の開拓が始まったばかりの小さな町。


なんにも考えずに行った転校先の学校には同じ苗字の子がクラスに何人もいて、初日からご丁寧に「○ちゃんが本家の子で、△ちゃんは分家の子」と説明される。
本家?分家?昔話みたいな単語に驚いた。


校庭の後ろは山で、狩りの時期になると「流れ弾に気をつけろ」というプリントが配られて愕然とした。どうやって気をつけるのだ、流れ弾。
そして学力テストの結果が発表された日、うっかり高得点をあげた私は女子にこう罵られるのだ。
東京もんがいい気になってる」
神奈川から埼玉に移っただけでそんな呼び名がつくとは思いもよらなかった。

f:id:dengpao90:20220228210250j:plain
お台場の花火


そんな訳で、人生において東京に住んだことはただの一度もないが、「東京もん」呼ばわりされる回数は多い、東京の隣の民だ。
隣ではあるし、東京の会社に勤めてもいるけれど、東京で行ったことのない場所も山のようにあるし、高層ビル群を見れば毎回「東京だなあ」と驚く。


そして東京で老舗の味を口にするたび思うのだ。
「ああ、やっぱり私は東京の人間じゃない、よそ者だ。お上りさんだな。」


f:id:dengpao90:20220228210740j:plain:w400


関西の人には「真っ黒い、塩辛い、食えたもんじゃない」と忌み嫌われる関東の蕎麦つゆ。子供の頃から「そんなに塩辛いかな?」と思っていたが、大人になって浅草で老舗のお蕎麦屋さんに入った時に「ああ!これか!」と実感した。


口の周りが痒くなるほどの塩辛さ。お店を出た後、喉が乾いて仕方なかった。職場の江戸っ子先輩に「浅草のお蕎麦がしょっぱかった」と話した所「やっと東京の洗礼を受けたのね」と笑われた。…これが東京の洗礼か。


先日、東京の下町で天丼を食べた。
古くからあるお店で、おじいさんが丁寧に天ぷらを上げてくれる。
昔スタイルなのか、衣は今流行りのサクサクではなく、ふわふわだ。そして天丼のたれも最近の甘辛い感じではなく、ちょっと塩気が強い。

f:id:dengpao90:20220228212253j:plain
2019年5月場所。お塩きれい。


そこに添えられた美しい白菜の漬物。その上には既にお醤油が回しかけられている。
でもお漬物自体、十分しょっぱいのだ。ここに更に醤油!
これが、東京で長年愛されてきた味なのだな。私はこの味で育っていないよそ者なのだな、と思いながら噛み締めた。


このしょっぱさ、おそらく肉体労働者が多かったのだろう、と帰宅後に調べたら、NHKの「チコちゃんに叱られる」で以前取り上げられていたらしい。



やっぱりそうだったか。神田の水で産湯を使うとか、三代続いた、とか江戸っ子の条件はいろいろあるらしいけれど、「しょっぱい味で育った」というのもきっと入っているんだろう。


どれだけ東京近郊に住んでいても、毎日東京に通っても、人に「東京もん」と呼ばれても、いいえ、私はよそ者です。