そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

春一番

あんたたち、一年中で一番日の長い日をいつも待ち受けていながら、いよいよというときにうっかり過ごしてしまうことあって?あたしはね、一年中で一番日が長い日を待ち受けていながら、いつもうっかり過ごしてしまうんだ
          フィッツジェラルドグレート・ギャツビー


長年「一年中で一番日の長い日をいつも待ち受けて」いたことはなかったけれど、春一番を待ち受けているのに、うっかり過ごしてしまうことは何度もあった。そうして、春先の風の強い日に「これ、春一番じゃない?」と浮かれては、周りの友人達に「一番はもう吹いた。これは二番」と厳しく諭されてきた。


今年の春一番はうっかり過ごさずにすんだ。
玉川高島屋に包丁を研ぎに出してから、待っている間にぶらぶらと大井町線沿線を散歩した。お昼に入った上野毛とんかつ屋さんには、よくある「親父の小言」というのが張り出されていた。それでとんかつを待っている間にしげしげと眺める。
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子の言うこと八九は聞くな、怪我と災いは恥と思え、だって。ふーん…。
頑固親父て感じだねえ…と思う中で印象に残ったのは「風吹きに遠出するな」という一言だ。確かに風が強く吹いていたら、歩くのに難儀するし、「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざでは「風が吹いて埃が舞って盲が増える」という話だったし、何より風の強い日は火事の恐れもあるもんな、としみじみ納得した。

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五島美術館のお庭の紅白梅


そんな言葉を見た後で五島美術館のお庭を散策していたら突如風がざわざわと吹き始めるので「ああ、そろそろ帰らなければ」と思った。帰り道、風に吹かれて埃が舞う様を見て、春だなとも思ったし、こういう日向臭さを待ち焦がれてもいたけれど、ああ早くお風呂に入りたい、とも思った。
そうして帰宅後、シャワーを浴びてから、あの風が春一番だったというのを知った。
本当に春がやってきたのだな。


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折しも啓蟄の日で、五島美術館のお庭を自由に出入りしているらしい猫は、地面から出てきた何かをしきりに気にしていた。



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3年程前の春先は、CSの日本映画専門チャンネルで一挙放送されていた「愛という名のもとに」を見ていた。

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懐かしのあのドラマは端々にボブ・ディランの「風に吹かれて」の歌詞をみんなで暗唱するシーンが出てくる。

どれだけ歩けば人として認めてもらえるのだろう?
いくつの海を越えたら白い鳩は砂地で安らげるのか?
友よ、 その答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている


あの春は、あのドラマを見ながら過ぎた90年代を思い出し、職場の同僚と「愛という名のもとに、懐かしいねえ!」と話をしていた2000年代のことも思い出していた。


春先はいつもこうして、風に吹かれて埃にまみれて、花粉症の痒い眼をこすり、日差しに目を細めながら過去を振り返る。
そして、咲き始めた花の日向臭さ、勢いの激しさに気圧され、鬱陶しい気持ちで道を歩いて、でも何かが始まるような期待に満ちている。
また今年も春がやってきた。