そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

おじさんのオレンジ

変な話だけど、「八百屋」さんって今の時代、放送禁止用語なんですってね。「○○屋」っていうのが日銭を稼ぐものを軽蔑してるみたいだからだって。
変なの。日銭を稼ぐことの何がいけないんだ。お菓子屋さんもケーキ屋さんもダメか。パン屋めぐりとか流行ってるじゃないか。

築地市場の八百屋さん


子供の頃はよくおつかいで八百屋さんに行った。店先まで野菜がずらーっと並んでいて、ぬか漬けの樽や、里芋が水に漬かった樽があって、お釣り銭は天井からゴム紐でぶら下げられたザルの中に入っていた。
あの頃は魚屋のおじさんも八百屋のおじさんも夕方には威勢のいい声でお客さんを呼び込んでいたものだった。


今は、スーパーにお行儀よく並べられた大人しい野菜を買うけれど、たまに道の駅や市場に行くと野菜の元気さ、ワイルドさに驚く。野生の野菜だな、って。

シンガポールの市場。これでもか!とぶら下がるバナナ。


免許を持っていないから自力で道の駅に行けないので、この前仙台に行った時も友人に「道の駅に連れて行って」とお願いし、野菜をしこたまキャリーケースに詰め込んで帰ってきた。まるで闇市の買い出しみたいに。
ニラやらネギやら暴力的なほど元気なやつが、暴力的な量にもかかわらず100円で売られていたり、規格外な大きさのしいたけやワイルドにぬめるナメコがどーーーんとパックに入っているのを見るとこちらもやたら元気になれる。

ベトナムの市場。隣では肉が路上で売られていた。


そんなこんなで市場や八百屋さんが好きだ。
昨日、ヨガの帰りにたまたま通りかかった八百屋さんの店先に青梅が出ていたので初めて立ち寄った。
そして、梅2kgとトマトとアスパラとオレンジ5個入りのパックを買ってきた。
このオレンジ、5個で200円だ。暴力的な安さだ。即決でカゴに入れたところ、人懐こそうなお店のおじさんが声をかけてきた。


「このオレンジね、本当に甘いよ」
そうなんですね、安くてびっくりした、と言うとおじさんは「うん、こっちのピカピカのはね、この値段」とバラ売りされているピカピカのオレンジを指さした。そっちは1個120円。まあスーパーと変わらないくらい。
「ちょっと見た目が悪いけどね、味は本当に美味しいから」とおじさんは言う。
…ちょっと見た目が悪いったって、そんなに気になるほど悪いわけでもぐじゅぐじゅになってるわけでもないのに。オレンジは皮を食べるわけじゃないから別にいいのに…と思いながらお会計をして帰ってきた。

静物画みたい。


帰宅後、梅のヘタをせっせと取って、梅酢シロップを仕込んだ。
前の会社の先輩から教えてもらった作り方で、漬けた後の梅はジャムにする予定だ。
やれやれ、一休みしよう、とオレンジを剥いたら本当に甘くて、ああ、おじさんの言う通りだな、と胸がきゅんとした。


オレンジを剥くたびにおじさんの「甘いよ」「見た目はわるいけどね」って言葉を思い出して切なくなっている。
おじさん、あんな恥ずかしそうな顔しなくていいのに。
こんなに甘くて美味しいオレンジなのにな。ピカピカの、まだ熟れてないオレンジよりもずっと。