幸福の香り

夏になると、アパートの同じ階の人が、昼も夜も玄関ドアを開け放ったままにしている。
一番奥の部屋だし、ご主人がいるから心配していないのかな。
猫がいて、かつ一人暮らしの私にはできない芸当だ。

眉をひそめているのではなく、いいなあ、と思っている。
というのも、開け放たれた玄関から、なんともすてきな匂いがするのだ。
なんだろう、幸福なご家庭の匂いだ。子供の頃から、友達の家などにいくとたまにあの匂いがして、胸がきゅんとした。

洗濯後のブラウスにアイロンをかけたときみたいな、ふわっと香るお花のような、少し甘くて、懐かしい香り。温かいご家庭の、人を安心させる香り。
あれはいったいなんなんだろう。
玄関に何かすてきなものを置いているのかしら。

うちは猫がいるから香りの強いものは置けないしなあ、と言い訳しつつ、猫が居ない頃でさえ、あんな素敵な香りであったことはなかった。
あの幸福の香りはどこで売っているなんなんだ。
どんな芳香剤を使ったり、どんな洗剤を使ったらあの香りがするのだろう。

いつかあんな幸せな香りのする家に住みたいものね。