そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

一週間の歌

木曜日、無職の私に友人鮭太郎からLINEが来た。
「土曜日、梨買いに行こうよ」


即座に「行く!」と返答したが、あとでしみじみと考えた。
「梨買いに行こうよ」なんて誘いを受けたのは生まれて初めてだ。梨なんて八百屋かスーパーで日々の買い物の中で購入するものだった。
だが、ここらの人は違うのだ。近くに利府という梨の産地がある。わざわざそこまで買いに出向くのだ。



このように街道沿いに梨直売店が軒を並べている。


鮭太郎は言う。「早めに行かないと売り切れちゃうから9時到着のつもりで出発するからね」「午後はもう売り切れだから!」


そんな人気のラーメン屋かうどん屋みたいな感じなのか、梨直売所というのは。
驚きながら出かけると、9時前から人が並んでいる直売所もあるし、各直売所がTwitterやらInstagramやらを駆使してあれこれ情報を発信していて、更に驚く。
私はこれまでの人生で、梨を買うことにこんなに情熱を傾けたことはない。
勢いにのまれてカメラも忘れて出かけたのだ。


そして大きな秋月という梨を6個買った。普通の梨より1.5倍くらい大きかった。隣には「かおり」という名の青梨も売られていたが、こっちはメロンのような大きさだった。なんでも「幻の梨」らしい。


その後、ドライブがてらに道の駅に行ったら、「ポポー」という謎の果物が売られていた。なんでも「幻のフルーツ」らしい。東北にはどれほどの幻が存在しているのだ、恐ろしいな。


アケビガキというのか。
アケビじたい、先日初めて本物を見た。ヤマザワという山形本拠地のスーパーで鮭太郎が笑顔で「ほら、あけび」と差し出すのだ。艶を失った茄子とでもいうか、明るい紫色をした腎臓型の物体に私は一瞬パニックになった。
あけび、という言葉は知っていたが、それと実物が結びつかなかったのだ。


後で鮭太郎があけびの説明サイトを送ってくれたが、つっこみどころが多すぎてまたしても何も言えなくなった。



あけびと見た目が似ているからって、いきなり黄ばんだ歯の広告が出てくるし、「見た目がワイルドでもOK」みたいなザックリ感。そして唐突に出現する「ムベ」
なんなんだよ、その妖怪みたいな名前のやつは。
…と思ったら、それも幻系のフルーツらしい。なんでも天智天皇がこの果物を食べて、村人が長寿であるのも「むべなるかな」と仰ったそうだ。


実りの秋、東北では米、梨、芋、あけび、蕎麦、様々なものが実りを迎えている。そして穂紫蘇も実っている。今まで穂紫蘇の季節も知らなかったし、わさーーーっとまとめられた大束が60円から100円などと言う破格の値段で売られていることも知らなかった。
道の駅で穂紫蘇を前に、スマホで処理方法を調べ、早速お買い上げして穂紫蘇を塩漬けにした。
ついでに「茹で落花生食べたことある?絶対食べたほうがいいって!」と鮭太郎に強く薦められた落花生も買った。


穂紫蘇の塩漬けも、落花生を茹でるのも初めてだ。
今日は鮭太郎が新米ササニシキのおすそわけにきた。
生産地の秋の、気圧されるほどの実りよ…。


そんなわけでこの週末の私の頭の中にはずっとロシア民謡の一週間の歌が流れていた。
土曜日に梨を買いに出かけ、日曜日は落花生を茹でる。
先週の日曜日は穂紫蘇を塩漬けにして、今週は新米に穂紫蘇を載せて食べる。
トゥリャトゥリャトゥリャトゥリャトゥリャトゥリャリャー




こんな生活が現実なんだな…。