そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

非日常の彼方

昨日は関東も大雪だったようで、Twitterなどで「雪国マウント」という言葉がトレンドにあがっていた。
雪が降ると関東が「雪だ!大変だ!」と大騒ぎすることに雪国の人々から冷ややかな眼差しが投げかけられることは今までもあった。
でもまあしょうがないじゃない。
だって、関東の人間にとって大雪は、少しワクワクする非日常なんだもの。

わざわざ写真を撮りに夜中に外にでるくらいに。 2018年横浜。


仙台に来て、雪の積もる頻度や積雪量は関東にいた頃とほとんど変わらない。
だが、雪の質と、人々の雪慣れがまるでちがう。そんなに降るわけじゃないのに何故この人達はこんなにも雪に慣れているのだろう。


昨日の雪だって、関東にいたら、もう昼過ぎから「どうする?え?ヤバくない?電車止まるかもしれないから帰れる人は帰って!」と会社の中がザワザワし始めるレベルだった。


でも仙台の人は雪など気にも留めずに仕事をしていた。私はまだ関東の心持ちで、何度かザワっとしそうになったけれど、周りの落ち着きぶりを見て「ああ、ここは東北なのだ、雪ごときではしゃいではいけない」と気を引き締めた。

若い男子は公園で謎の円陣を組み、はしゃいでいたけど。

雪にも関わらず、近所のスーパー銭湯にもたくさんの車が出入りしていたし、ヨガレッスンも普通に開催された。関東だったら中止だっただろう。
そして、今日。


今日は秋保の日帰り温泉に行こう、と以前から友人と約束をしていたのだけれど、雪が積もっているしムリかな、と思っていた。
が、友人は「平気平気。除雪車も出てるだろうし」と言う。そうなのか。こんな積雪の中、車で出かけることも日常なのか。


道路はきちんと除雪されてきれいになっていて無事に到着し、温泉街のホテルをチェックアウトした人々は、長いブラシで当たり前のように車に積もった雪を落として出ていった。あんなブラシもみんな持っているものなのか。雪くらい日常よ、というその逞しさ、すごい。



だが、今日行った日帰り温泉のホテルは完全に非日常であった。
どんな非日常かと言うと、「バブル期のツアーでよく使われた温泉街の巨大ホテル」という、絶滅危惧種の非日常だ。


こちらはロビー。



色とりどりのふかふかカーペット。
今でもこんなカーペットを作ってくれる会社はあるんだろうか。



カフェラウンジからの景色。蒔絵、シャンデリア。そして右手には夜になると光るタイプのエレベーター。


否が応でも失われたこの30年のことを考える。
ああ、あの頃ならばここにはひっきりなしに観光バスがやってきて、ホテルの玄関口で、3段の撮影台に載せられて、まずは記念撮影をしたのだろう。
そして風呂に入り、大広間で食事をして土産物屋をひやかしたのだろう。
新幹線で仙台駅に着いたら、バスで青葉城を見てから秋保に来て、温泉宿に泊まって翌日は秋保大滝見てからの山寺だろう、とコースまで想像できる。


こんなバブリーな建物がまだ残っていたのか。こんなにもいい状態で。
これはもう遺産と呼べるのではないか、と興奮しながら風呂を出たり入ったりした。


「バブル建築 ホテル」と調べると白浜温泉のホテル川久が真っ先に出てくる。


しかし私が思うバブル建築というのは、こんなコンセプトがあるオシャレな建物のことじゃない。
無駄にデカくて、あちこち光って、成金趣味の豪華さで、無理矢理感のある和洋折衷。
金色とライトアップが大好きで鯉と滝を多用する、豪華だけどちょっとチープなあれだ。



バー「篝火」そしてカラオケルーム「微行(しのび)」
このネーミングセンスも漢字の読ませ方も昭和ぽくてトキめく。


鬼怒川には確かまだこういうホテルがあったよな、と調べたらリニューアルして、ただの羽田空港みたいになっていた。


バブルも崩壊し、コロナ禍もあり、今やあちこちで廃墟になったり取り壊されたりしているのに、鬼怒川みたいにリニューアルされたりだってしてしまうのに、よくぞ残してくれた、と私はしみじみ感動した。


そして、他にまだこういう遺産は残っていないのか!こういうホテルに行きたいんだ!と心から思った。
それはまるで「バロック建築を堪能するためにイタリアに行きたいんだ!」と思うのと同じような熱意で。


バロック建築なら文化遺産として保護もされ、今後も残るだろう。しかしバブル建築はいつ取り壊されて絶滅してもおかしくない建物だ。
なにせ最近の流行りじゃないし、維持費もかかるのだ。
でも残してほしい。そしてたまにあの頃の非日常に浸りたい。


だって今どき、こんなキンキラのノリタケティーカップでコーヒー出してくれるところなんてなかなかないもの。
こういうの、昔のおばあちゃんの家なんかに必ずあった。



こんなベルサイユみたいな椅子を並べてるくせに、碁盤と将棋盤とオセロが脇に置いてあるティールームなんて、なかなかないもの。


こういうの見ると、懐かしさと親しみやすさと元気さに、胸がキュンとするんだもの。
素晴らしかったな、ホテル瑞鳳。ぜひあの佇まいを維持して頑張ってほしい。
忘れかけていた、あの頃の非日常をありがとう。