そういえば

帰ってきたおばあさん。

三つ子の魂

仙台に引っ越す前に久々にかえる姉さんとお茶をした。
かえる姉さんは若い頃に劇団で一緒に働いていた先輩で、仕事に関しては大概姉さんから教わった。
今は姉さんも劇団を辞めて別の会社で働いているが、あれこれ先回りしてものを考えては周りの人に「考えすぎですよ」と言われると言っていた。

杉の生い茂る高尾山。


それ、私も言われがち!
と驚いていたら、姉さんが「だって我々あの劇団育ちだもん。何かあっても誰も助けてくれないし、自分でなんとかしないといけなかったから、事前にあれこれ想定していたじゃない」と言う。
確かに。ああ、そうか、そのせいか。だからこんなにも先回りしてあれこれ心配してしまうようになったのか。
なんだかすごく納得した。

遠くを見渡して危機に備えるキリン ズーラシア


一緒に仕事をしていた頃、あの人には常に「次に使う人のことを考えろ」と言われた。母親みたいだなあ、と思っていた。
「用紙を使い切ったら次の箱を開けろ」「輪ゴムをグチャグチャにしておくな、取りやすいように入れろ」などなど。
そして未だに何かにつけて思い出すのが「ホチキスの黄色いところが見えたら芯を補充しろ」との教えだ。

黄色いところ


劇団を辞めても、よその会社に行っても、共用じゃなくて自分専用のホチキスでも、自宅でも、私は黄色いところが見えるたびに「補充!補充しないと姉さんに怒られる!」と20年以上思い続けて生きている。今日も会社で思い出した。
多分死ぬまで思うのだろう。


かえる姉さんではなく、もう亡くなった祖父についても同じように石に刻まれた教えがある。
それは「電気のカバーに虫が入ったままにするな」ということだ。


祖父から直接聞いた訳では無く母から聞いたのだ。祖父母が家にくるとなると母が電気のカバーをチェックして「じいちゃん、ここに虫が入っているのが大嫌いだから洗ってきて」と言われ、電気のカバーを風呂場で洗った。
正直、年末の大掃除でも電気のカバーは洗っていなかった。ここを洗うのは祖父が家に来るときだけだ。
だから強烈に刻まれたのだろう。
「電気のカバーの中に虫が入っているとじいちゃんが怒る」


秋の羽虫が家に入ってきて、猫を興奮させる今日このごろ。今日はちょっと大きめの虫がさきほどからぐるぐると回転している。
奴め、そのうち、電気のカバーの中で死ぬのだろう。
そして私は「じいちゃんに怒られる!」と思いながら、週末電気のカバーを洗うのだ。


「怒られる!」と怯えながら、そしてちょっと笑ってしまいながら、これで姉さんやじいちゃんは喜んでくれるかと思いながら、きっとこの先もずっとこうして、ホチキスの芯を補充し、電気のカバーを気にかけて生きて行くんだろう。