選択肢
神奈川から仙台に引っ越してきて、先日初めてラグビーを見た。
久々の生観戦、楽しかった。
でも、また見に行きたいと思っても仙台にはなかなかラグビーの試合は来ない。美術館も博物館も一つしかないし、コンサートやライブや芝居だって全然来てくれなかったりする。映画でさえ。
そんなことも覚悟はしていたけれど、たまにやっぱりあーあ、と思う。
あーあ、なんて選択肢が少ないんだ、と。
銀行だって選べないのだ。お給料も家賃も七十七銀行オンリーで唖然とした。地下鉄定期券もイクスカという仙台の専用ICカードでしか購入できない。
その選択肢の少なさを嘆いたりイラついたりもする。帰りたくなったりもする。
だがしかし。
逆に仙台のほうが選択肢が多いものもあるのだ。
それは米と野菜。
かつて教科書で学んだ宮城県の米、ササニシキを関東のスーパーで見かけることはなかったが、こちらではもちろん売られている。
それどころか、だて正夢だの、ささ結だの、金のいぶきだのと地下アイドルの如く、謎の米たちが存在している。
そして野菜も、菜の花一つとっても様々な菜の花がある。
きのこ類の種類も、梨やいちごの種類もあれこれあった。そしてミニトマトだ。
近所に農業園芸センターという施設があって、そこのビニールハウスで9月から翌年6月までミニトマト狩りができる。
今日はそこで今季3度目のミニトマト狩りをしてきた。
最初のときにも驚いたが、ひとくちに「ミニトマト」と言っても、まあ、いろんな種類があるものだ。
それを一つずつ食べ比べしながらトマト狩りをすることができる。
初めての狩りのときには「ほれまる」という品種に夢中だった。
甘くて味が濃い。特に実がはじけているものはまるで果物みたいだった。
ところが2度目に行ったときには「ほれまる」にそこまで魅力を感じなかった。なんだか甘さが足りなかったのだ。
種類によっても味は変わるが、生育のサイクルによっても味が変わるんだな、生き物って感じだな、と驚いた。
2度めのときに夢中だったのは、オレンジ千果。
スーパーで買う時はオレンジや黄色のミニトマトはなんとなく避けていたけれど、こんなに美味しいのか、と感銘を受けた。
そして3度目の今日は、春になって気温が上がっているせいかどの品種もすごく甘くなっていた。生きてる。
中でも良かったのは、イエローミミ、千果、そしてなによりフラガールだ。
フラガールはキャッチコピーが素晴らしい。
「一口食べれば動きだし、二口目には、ステップを踏んで踊りだす情熱的なおいしさ」
生産者の愛を感じる。
しかし、冬の間は「いや、踊るほどではないかな」と思っていた。
春になったらまさに「こいつはヤバイ!」と踊りだしそうだった。別品種を狩猟中の友人を「大変だ!フラガールが美味い!」と大声で呼び寄せたほどだ。
6月でシーズンが終わるので、まだあと1度は行かなければいけない。次回はどんなミニトマトが美味しくなってるだろう。
デニーズもジョナサンもなく、高島屋も東急もない、私鉄もない、選択肢の少ないこの街で、私は別の選択肢を手に入れている。
そして、どんどん米やトマトの品種に詳しくなっていくのだ。
1年前なら信じられないことよ。
思えば遠くへ来たもんだ。