伊達や酔狂
仙台に来てからずっと、仙台への驚きしかブログに書いていないが、半年過ぎた今なお、驚きは尽きない。
関東から東北へ移り住むくらいでこんなにも驚きの連続であったなら、海外に住んだら驚きすぎて息が止まるのではないかと思うほどだ。つくづく上京組や華僑や在日外国人の逞しさを痛感する。
12月に友達のくまちゃんと光のページェントを見に行った。待ち合わせは仙台駅だ。
「着いたよー、どこに行けばいい?」とLINEすると「ステンドグラス前に来てください」と返事が来た。
ステンドグラス…あーそういえば、新幹線口から見下ろした景色の中にそんなのがあったような気が…と思いながらたどり着くと、そこは渋谷ハチ公前の如く人々で溢れかえっていた。
なるほど、仙台での待ち合わせスポットはここなんだねー、としみじみしていると、くまちゃんは言う。
「昔はここに伊達政宗像があったんですよ。だから待ち合わせは『ダテマエ』って言ってたんですけど、政宗さん、岩出山に帰っちゃったから…」
…ダテマエ…。伊達前か。
そしてこっちに来てからよく聞く「岩出山」という単語。何度聞いても「イワデヤマ…どこの山?…」と途方に暮れるが、宮城県の北の方にある町の名で、なんでも米沢生まれの政宗公が小田原征伐後から関ケ原の戦い後まで住んでいた重要拠点なんだそうだ。関ケ原の戦い後に仙台にやってきたらしい。
もう、この町にいたら、何かにつけて「政宗公」だ。町なかの寺社仏閣や歴史的建物など、どこにもここにも「伊達政宗」の名がある。
かに道楽的なかにレストランだって「かに政宗」だ。
コロナ対策も、仙台市が提唱する合言葉は「だてまさむね」
こんな動画が区役所で延々放送されていて大変驚いた。
更には本屋さんや雑貨屋さんに政宗公騎馬像グッズが売られていることにも驚いた。
\男女問わず大人気!騎馬像 #トートバッグ /
— 仙台藩『伊達政宗』騎馬像 (@Eastpond_sendai) 2023年1月12日
✅人気 #政宗トート は3サイズ展開!カラバリは共通で全12色★お好きなカラーがきっと見つかります♪
✅催事や各店舗でも大人気の政宗トート♪オフィスベンダーや東急ハンズでもお買い求めいただけます◎
詳細は下記ツイート▼#伊達政宗 #お土産 #宮城 https://t.co/ZZOHagDYkt pic.twitter.com/ZRALU6BJeL
そしてその伊達政宗公騎馬像が昨年3月の福島沖地震で損傷したので修復するらしい。
それはいいけど、その修復にあたって、仙台市のお知らせもやたら詳らかだ。
どこが壊れているだの、運搬日程だの、こんなにも細かく発表するのだな、と驚く。それだけたくさんの人々がこの像に興味関心を持っているのだろう。
産経新聞の地方ニュースも写真満載で詳しくお伝えしているくらいだものな。
ああ、ここはいまだに伊達藩なんだなあ、と私はしみじみした。
市長や県知事がこの地を治めているのではないのだ。令和の今なお、伊達政宗公の支配下にあるのだ。永久名誉県知事くらいのレベルだ。
あまりにも「政宗」「政宗」なので、友人鮭太郎に「ねえ、政宗公以前の仙台ってどうだったの?」と聞いてみたところ、一言「なにもないんじゃない?」とのことだった。
政宗公以前に何もなし。では政宗公以後はどうなのだ、と仙台藩の歴史をざっと調べた。
2代目藩主忠宗公も大変頑張ったようなのに、まるで評価されていない。その後は早死にだの養子だのお家騒動がいろいろあったり大変だったみたいだ。そんなわけで、政宗公以後も知名度は政宗公ばかりの模様。
*
さて。
この10年くらい、お菓子や土産物等、飲食関連のあちこちで見かけるフレーズはこれだ。
「マツコさんも大絶賛」「マツコの知らない世界で紹介された」「マツコおすすめの」
なんであの人が美食家代表みたいになっているのかわからないが、ともかくマツコマツコの世の中で、この仙台藩はマツコじゃないのだ。
「伊達ちゃん」だ。
どこに行っても、サンドウィッチマンのサインがあり、伊達ちゃんのサインがあり、「伊達ちゃんおすすめの」「伊達ちゃん大絶賛」「サンドウィッチマン伊達さんも大好きな」と書かれている。
周囲の仙台市民たちも口々に言う。
「あそこのマドレーヌ、伊達ちゃんが超お気に入りらしくて、ホントに美味しいんだよー!」「伊達ちゃんも仙台帰ってきたら絶対ここに来るらしいよー」「こないだ伊達ちゃんがテレビでこのお菓子紹介してたよー」
昨日も友人鮭太郎が「これ、伊達ちゃんも大好きらしいよ!食べてみて!」と言って、お土産をうちに持ってきてくれた。
仙台牛ロールステーキ。大変美味しゅうございました。
…さすが伊達ちゃんのオススメ…。
多分、この仙台藩において、政宗公の次に知名度と影響力が高いのはサンドウィッチマンの伊達ちゃんだろう。
とにもかくにもこの街は伊達の支配下だ。
それは決して伊達や酔狂ではなく。