そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

赤と黒

先代貴乃花夫人だった藤田憲子さんが歯医者さんと不倫しているという噂が流れた時、週刊誌はこぞって書きたてていた。
「元家政婦激白!医師と会う日は黒のランジェリー!
電車の中吊りで見ただけだが、男性誌のみならず、女性誌まで鼻息を荒くしてそんな見出しをつけていることに驚いた。だって、黒の下着なんてごくごく当たり前のもので、誰でも1組は持っているじゃないか。デザインが少しくらいセクシーだった所でそんなにも衝撃的なものではないはずだ。


あれよりは、98年に西川峰子那須の別荘が台風で流された後、峰子がバラエティ番組か何かで言ったコメント
「台風の後で河原に、土砂にまみれて私の赤い下着がひっかかっていたのを見つけた、あの時の気持ちと言ったら…」という言葉の方がよっぽど衝撃的であった。
赤い下着!!さすが女優。
そして、土砂にまみれた赤い下着が河原にひっかかっている、という描写の生々しさ、やるせなさ、悲哀、滑稽さ、リアリティ。
峰子はすごい女だな、と思った。
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赤い下着は非日常のものだ。自分の家の箪笥に入っている所も、自分が身につけることもどうしても想像できない・・・と、若い時分は思っていたが、老人にとって赤い下着は信仰の対象のようだ。
www.umk.co.jp

  • 申年に4枚のパンツを贈ると死が去る
  • 申年に子供から贈られた下着を身に着けると病が去る
  • 申年に贈られた肌着を身に着けると生涯、下の世話にならない
  • 申年生まれの人から、赤い物をもらうと嫌なことが去る


そう言えば昔、母が嘆いていた。還暦を過ぎた祖母から赤い下着が送られてきて、「申(さる)」と書いて返送してほしいとの依頼があったと言うのだ。どういうこと?と聞くと、母はうんざりした顔で言った。
「あたしだって知らないわよ。なんでも申年に娘から下着に『申』って書いてもらって、それ履いたら婦人病にならないんだって、あの人が言うのよ。母親のパンツ見るだけでもアレなのに、ものっすごいでっかいパンツよ?ズロースよ?あたしもう、げんなりしたわよ!」
へえー、それでどうしたの?と尋ねると「しょうがないから書いてやったわよ、マジックででっかく黒々と『申』って」との事だった。
・・・ど、どこに?と聞いたら今度は怒った。「前以外どこに書くのよ!お尻に書いてあったらおかしいじゃないの!」
前に書いてあったって十分おかしいが。

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老人の赤パン信仰の総本山、巣鴨のパンツ屋。

峰子の赤いランジェリーも非日常だが、赤いパンツに「申」と書いてあるのだってずいぶん非日常的な話に思える。
だが、中国では赤いパンツはそんなに非日常ではないようだ。

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NHK中国語講座に出演されている、声優で漫画家の中国人、劉セイラさんの漫画「教えて劉老師!」にも赤い下着が出てきた。
そうだったのか、中国では自分の干支は厄年で、その時に赤い下着を履くのか。
確かに上海と蘇州に旅行に行った時、やたらと赤いパンツが干してあるのを見かけた。しかも独特な干し方だった。
中国人はやっぱりパンツも赤か!そしてハンガーに履かせて干すのだな、と感慨深かった。

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旅行中にこのパンツの干し方あちこちで見かけた。


そんな漫画も読み、年も取り、だんだん赤いパンツが非日常ではなく、身近な存在になって来た。もちろんセクシーランジェリーではない、厄除けとしての赤パンの方だ。老人の「赤パン信仰」はもはや私にとって「奇異なもの」ではなく「あやかりたいもの」になったのだ。
…思えば遠くへ来たものだ。


そんな訳で今我が家には赤いパンツが2枚ある。黒いパンツはたくさんある。
きっとこれから赤いパンツも増えていくことだろう。今だって、赤いパンツを履くとなんだか元気が出たような気がしているのだ。
おお、恐ろしい…。


2013/08/06「赤と黒」 改訂