そういえば

帰ってきたおばあさん。

おとりまき

11月初め、友人鮭太郎と近所の農業園芸センターにでかけたところ、沼の近くで鮭太郎が「お?白鳥の声がするね。もう来たかな」と言い出した。


は?白鳥?この謎の音が白鳥の声?
私はてっきり、どこかで少年野球などしている子供の声が風に乗って聴こえてくるのかと思っていた。



しかしそこには紛うことなき白鳥がおり、そしておびただしい数の鴨的な鳥がいた。
なんでも白鳥は越冬のためシベリアからやってくるらしい。宮城県内に白鳥飛来地として有名な場所があるというのは聞いたことがあった。そこにだけ来るのかと思っていたら、我が家の近所にも白鳥の湖が!と、衝撃を受け、無職期間中に再度自転車で白鳥を見に行った。



遠くから恐竜のようにバサバサと飛来し、ザザーーーっと着水する白鳥。
おいおい、カッコよすぎるじゃないか、トップガンみたいじゃないか、なんなんだ、この野生の王国は。


と、一人興奮する私の頭上を小さき鳥の大群がロート製薬のCMのように駆け巡り、鴨たちが鳴き、サギが孤高に立ち尽くしていた。
そして、鳥あるところに鳥大好きな、バズーカレンズを何本も抱えた、鳥のとりまきおじいさま方もたくさんいて、とりまき初心者の私に親切にいろいろと教えてくれる。


「ほら、あれはウズラシギ。結構めずらしいんですよ。もっと近くで撮りなさい」

なるほど。たしかにウズラぽいな。
それですっかり満足したし、恐ろしく寒いので鳥を見に行くこともなかったが、今朝、鮭太郎から「おはよー、起きてたら白鳥を見に行こう」と伊豆沼に誘われた。


伊豆沼は白鳥飛来地で有名なラムサール条約湿地。蓮と伊豆沼ハムが有名。
その程度の知識だけで鮭太郎の車に乗り込んだところ、鮭太郎は言った。
「距離感おかしい感じで白鳥見れるから」

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仙台から岩手との県境付近まで北上するので、かなり寒く、田んぼの用水路も凍りつき、沼も凍っていた。

そして岸辺にはでっかい星砂のような不思議なものがたくさん落ちている。なんでも蓮の実だそうだ。すごいな。化石みたいだ。


到着したとき、沼が凍っているせいで、白鳥は遠くの対岸におり、出迎えてくれたのはオナガガモというフレンドリーな鳥たちだった。

オシャレなグレーのスーツが男子。まだらの茶色いのが女子とのこと。そして口々に「なにか美味しいものもってるんすか?早くだしてくださいよ」と言いながら周囲を取り囲んでくる。
更には、ふと何かに気づいて一斉にバサバサバサと飛び立つ。

その勢いたるや。


助走もなしに一気に飛び立てる彼らの羽ばたきの羽音は押し寄せる波のようだし、羽についた水分をすべて撒き散らして細かいミストを人に浴びせかける。
渦中に呆然と立ち尽くす私の後頭部にぶつかっていく者もいる。

なんという光景だよ。恐ろしいな…。
オナガガモに翻弄されているうちに白鳥もやってくる。オオハクチョウなので、デカい。そして白鳥はわりとトボけた顔をしている生き物だ。


氷で足を滑らせたり、変な内股ステップだったり、飛べばいいのに南極観測隊のごとく氷の上をゆっくり歩いてやってきたり。
しかし、彼らはやはり白鳥だ。貴族的な鳥だ。


人々が車で訪れるたびにオナガガモたちは一斉に「ごはんですね?我々のご飯なのですね!ください!」と、素直に押し寄せるが白鳥は違う。

「我々は白鳥ですので。どうぞそちらからお越しください」とでも言わんばかりにずらっと決めポーズで並んでいる。スワンボートスタイルだ。
おお、おお、さすが白鳥様だねえ。



沼の近くにサンクチュアリセンターという施設があり、沼に来る鳥たちの情報を知ることができるので立ち寄ったところ、驚いたことに、ほぼ白鳥とマガンの紹介で、あの愛嬌のあるオナガガモについては一切触れられていなかった。
なんでも夜明けにマガンが一斉に飛び立つ光景と、夕方、マガンが沼に帰ってくる光景が大変有名だそうだ。


いや、確かに素晴らしいけれども!


しかし、夜明けに飛び立ってどこかの畑で日がな食べ物を物色しているマガンが不在の間、人々がやっと起きて沼にやってきた時に、広報部長のごとく愛想よく現れて皆を盛り上げ、飛行ショーなども見せてくれたオナガガモはなぜこうも冷遇されているのだ!
白鳥がアイドルなのはわかる。でもなぜマガンがそこまで!

大所帯でやらせてもらってますー。


友人鮭太郎は「まあ、マガン、今しか見れないからじゃない」と言う。たしかにマガンが畑で食事をしている光景さえ、バズーカレンズを抱えたとりまきカメラマンたちがたくさん写真を撮っていた。


だが、調べたところ、オナガガモだって越冬のためにシベリアなどからやってきている。おかしい、この待遇の差はなんだ!
と、更に調べるとマガンは天然記念物だそうだ。一時絶滅が危ぶまれ、天然記念物に指定され猟は禁止されたらしい。


そんなマガンと違って、オナガガモwikipediaでの扱いもひどい。

  • 日本では、各地のハクチョウ渡来地において、ハクチョウ類の周囲に多数群がっているのが観察される。
  • ハクチョウ渡来地ではハクチョウの餌付けの際に殺到する様が見られる。
  • マガモ同様、肉が食用として賞味されるが、その味はマガモに較べて水っぽく、劣っているとされる。

確かにwikiの言う通り、白鳥の周りにとりまきの如く群がって、白鳥の餌付けに殺到している。味は水っぽいのかもしれない。マガンのように夜明けに劇的に飛び立ったりもしない。でも私はもうすっかりオナガガモが気の毒でオナガガモに肩入れしてしまう。


白鳥だってマガンだってね、おとりまきがいるから輝いてるって部分もあるじゃない?
ジャニーズだって、ジャニーズJr.の賑やかしがあって、デビュー組が輝いてるわけじゃないですか。


そんなことに真剣に憤ったりしているのだ。この野生の王国で。
オナガガモという単語も初めて知ったくせして。

オナガガモに餌をやるわたくし。