卓球とは
子供の頃、近所の児童館などには必ず卓球台があって、とてーん、とてーんと球を打ち合ったものだ。
温泉卓球のような、のんびりとした手軽な遊び、それが私にとっての卓球だった。
ある日、何かのきっかけで近所の卓球教室に見学に行った際、私は心底驚いた。
そこでは男子たちが、足音を激しく立てて床を蹴り、目にも止まらぬ速さであのピンポン玉を打ち合っていたのだ。
「卓球というのはこういうスポーツなのか」と人生で初めて知った。
子供の頃からずっと、卓球ほど、そのギャップに驚かされるスポーツはない。
もう10年近く前か、NHKでたまたま卓球の全日本選手権を見てしまった。
驚いたのなんの…。
広い体育館の真ん中にポツリと置かれた卓球台。取り囲む防球フェンスは、スクリーンに炎をメラメラと映し出す。更にプロレスのように盛り上げるアナウンス、吹き出すスモーク。その奥から決め顔でポーズを作りながら水谷隼がやって来た。あれが私が水谷を知った最初だ。
更には、クイズ・ミリオネアのような審判台や、審判のおじいさんたちが、あの速さでやりとりされるボールをきちんと見ていることにも驚いた。すごい動体視力だ。
卓球って、こういうスポーツだったのか…。
私の頭の中にはずっと、子供の頃に見たプレハブ造りの卓球教室や、まだ小さかった福原愛ちゃんが泣きながら練習する自宅の卓球台の印象しかなかったし、どちらかと言えば地味なスポーツだと思っていたのだ。
聞いた話ではヨーロッパでも卓球が盛んで、同じ様にプロレスのような演出で大会が行われるらしい。
ヨーロッパでも卓球が盛んなせいなのだろうか。
昨夜、私はまたしても卓球に「お前…こんなスポーツだったのか」と打ちのめされた。
ネット上に流れてきた広告でFENDIが誇らしげに「新作だ」と言うのだ。
卓球ラケットとボールケース付きバッグ、お値段767,800円だ。なぜだ。
ラケットにもこれでもかとフェンディフェンディと書いてある。だからって76万か。
これだけでも驚いていたが、調べたらルイ・ヴィトンやSUPREMEも卓球ラケットを出している。
ルイ・ヴィトンのボールケースはまるでゆで卵ケースみたいだ。
SUPREMEのは赤いせいだろうか、「内祝いに!」などと書かれたりもしていた。還暦のご両親にプレゼントしたりなどするのだろうか。
恐ろしい。野球道具にこんなことあるか?
お金持ちの人々は、イタリアの噴水の脇などを颯爽と歩きながら、ビジネスの息抜きにふと、「卓球やろうぜ!」てこぼれる笑顔で言うんだろうか。
「卓球って仕事とまったく同じなんですよね、相手との駆け引きというか」なんて、革張りのソファーの上で意識高く足を組みながら言うんだろうか。
卓球って、卓球って…。
いつも、どんなスポーツなのかわからなくなる。