そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

高いところから

時々限界集落や、海外の農村のドキュメンタリーを見ていると「生まれてから一度もこの町を出たことがない」というおばあさんやおじいさんが出てくる。
そういう生活に少し憧れたり、それはどんな人生なんだろうかと考えたりもする。


なんだかんだ折に触れて移動している人生なので、もう「生まれてから一度もこの町を出たことがない」という人生は歩めない。
それなりに移動のある人生は地図を眺めることが多い。
仙台に来る前も、散々地図を眺めた。でもどんなに地図を眺めても実際に歩く景色や距離感や、歩く気持ちは地図とは違う。


そしてどんなに地図を眺めても、それはまた、高いところから眺める景色とも違って見えるものだ。
地図の達人なら、上手に想像して読み解くのかもしれないけれど。


今日は会社帰りに仙台駅前のアエルというビルの展望台に行ってきた。仙台の町を高いところから遠くまでずっと見渡してみたかったのだ。
バカと煙は高いところに登る、というけど、私は高いところから全体像を見渡して安心するタイプなのよ。
まず驚いたのは北側にそびえ立つ仙台大観音だ。



噂には聞いていたけど異様にでかい。
写真だと小さく見えるけど肉眼だとデカくてビビる。大船の観音様なんて到底勝てやしない。

赤丸のところが仙台大観音。


そしてそびえ立つ奥羽山脈の偉大さにもビビる。なんというデカい山だ。仙台は都会、などと思っていたがあんな巨大な山々がすぐ近くにそびえているのだな。



東側は海まで真っ平ら。右奥の緑色が、私が以前に驚愕した広大な水田だ。こんなところが家の近所だなんて、と。
南側はスポーツジムになっていて展望できなかった。本当は少し東京方面が見たかった。東京まで見えないのはわかっているけど。
展望台から地上に降りたら、今度は地下鉄までたどり着くのに難儀した。


どれほど地図で位置関係を見ても、高いところから町を見渡しても、それでも地下鉄東西線の入り口までは見えないものね。
仙台駅は恐ろしく巨大で、私にとっては新宿駅以上の迷宮だ。


やっと地下鉄の入り口を見つけて、最寄り駅まで帰ってきたら、西の空にきれいな夕焼けが広がっていた。
仙台の空の広さと夕焼けの美しさには毎回驚く。友人には「毎回それ言うよね」と言われる。
仙台育ちの人間にとってはこんなこと当たり前なんだろうな。


ちょっと前まで、この町で夕焼けが美しいと切なくて心細くなっていたけど、今日はもう心細くならなかった。
高いところから見渡したら、自分の町だと思えるようになったのかしら。


満月

夕方、大きな丸い月がのぼっていて、ああ、満月かとおもったら満月は明日なんだって。
大きくて丸くて黄色い月だった。



自分で唐突に思い立って決めて仙台に来たけれど、いまだに「なんで私、ここにいるんだろう」と思ったりする。
「何やってるんだろう」とも「間違っただろうか」と思うこともある。


でも、月を見るたび、月に呼ばれたんだろうな、と思っている。
あの5月にみた十三夜の月や、昔、山形の帰り道に見た月、ずっとずっと心の中に残っていたそんな月に。

ジンジャーシロップ

ちょっと前に友人に泉ボタニカルガーデンという所に連れて行ってもらった。
仙台は土地があることもあり、最近の流行でもあるのかあちこちにボタニカルガーデンがある印象。



この丘の上の東屋で病弱なお嬢様ごっこなどした。
「わたくしにはこのお庭だけが世界のすべて…コホコホ」とか言って。



カフェで、シャーリーテンプルを飲んだところ、ジンジャーエールが辛口で本当に美味しかった。
お店の人に聞いてみたら、業務用のウィルキンソン辛口の瓶入りジンジャーエールなんだそうだ。



ペットボトルのウィルキンソン辛口を買って見たけど、なんだか、あのシャーリーテンプルほどの衝撃的な美味しさがない。
それで、よし、ジンジャーシロップを作って見ようと思い立った。



レシピはこちらを使用。
七夕まつりの時にアーケードのカルディでスパイスも買い込んだ。


結構うまくできたけど、次回は黒砂糖でコクもだそう、ブラックペッパーで辛味を足そう、新生姜じゃなくて根生姜にしてみるかな、などといろいろ検討中。
ちなみにコスパはあまり良くなさげで買ったほうが安いかも。


でもお店じゃ買えない美味しさだもの!

メッセージ


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ユーミンは「やさしさに包まれたなら」の中で「目に映るすべてのことはメッセージ」と歌っていた。
そんな風に思える日もあるし、思えない日もある。


さて、引っ越しのどさくさの中で己の愚かさを呪ったことはたくさんある。
台所の食品庫にするつもりで持ってきたスチールラックは今の家の天井の高さに合わなかったし、前の家のカーテンは今度の家では短すぎた。物干し竿もせっかくサカイ引越センターに運んでもらったのに長さが足りなくて鮭太郎にゆずった。


前の入居者が物干し竿を置いていってくれたので、当座はしのげた。前の入居者はきっと用意周到な人で、転居先で必要な物干し竿の長さをちゃんと測っていたんだろう。素晴らしいな。


今度の家はベランダに手すりがなく普通の洗濯ばさみではバスタオルが干せない。そんな所も私はまるで考えていなかった。前の入居者と違って用意周到じゃないのだ。


みんなどうしているのだろうと思っていたら、物干し竿を2本使用してバスタオルと洗濯物にわけて干したりしているようだった。
そんなわけで、私も物干し竿を買い足した。今度はちゃんと長さも測った。
そして届いた物干し竿にはこんな説明書が入っていた。



「自分になる」…?
何を言っているのだ、この物干し竿は。


どうやら中国深センから来た物干し竿らしい。中国人は物干し竿を通して、私に何を言いたかったのだろう。
引越し後、中国語の勉強をサボっていることへの警告か、事前の下調べが足りないことに対する啓蒙か、仕事が始まったもののあれこれ迷っていることへの叱咤激励なのか。


「自分になる」
およそ物干し竿が発してくるメッセージとは思えないが、目に映るすべてのことはメッセージだもの。
きっとこのメッセージにも何か意味があるんだろう。

仙台七夕まつり

土曜日は人生初の仙台七夕まつりに行ってきた。



ニュースなどでよく見る、この吹き流し。今年はコロナ禍だから通常より2m上に上げているらしい。本当はもっと地面に近いところまで下がっていて、吹き流しを通り抜けて歩いたりするんだそうだ。
アーケードにはどこまでも吹き流しが下がり、アーケードとアーケードの間の大通り沿いにはずらっと屋台が並ぶらしいのだけど、今年は食べ物の屋台はなしで、食べ歩きも禁止とのこと。



一番の目玉はこの、折り鶴の吹き流し。



真ん中に入るとまるで水族館みたいで、たくさんの人がここで写真を撮っていた。
どこまでも続くアーケードを延々と歩いて、カフェでお茶などする。カフェもそれほど混んでいないので驚いた。関東だったらこんな時、どこのお店も激混みなのに。
そしてこの祭りがなんだかやたらと静かなことにも驚く。



人々はたくさんの吹き流しの下を静かに歩いて行く。
商店街に流れるオルゴールの「流星のサドル」が普通に聞き取れるほどだ。さとう宗幸の「青葉城恋唄」と「七夕おどり」という盆踊りの曲も流れる。調べてみたところ島倉千代子が歌っているのだそうだ。



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群馬出身のゆりあと「なんかさ、この祭りってこう、静かに楽しむ祭りなのかねえ、若いやんちゃな子がおまつりではしゃいで集まったり、ウェイウェイ騒いだりとかしないんだね」「確かにやんちゃな若者がいませんね」と話し合う。
仙台っ子の鮭太郎は「七夕には地元の人間が来ないからじゃない?」と言うが、若いやんちゃな子はお祭りと聞けばどこにでも行くものなんじゃないかしら。


中学生や高校生の「学生だけでワイワイ歩いてはしゃいで楽しむ」感じがあまりなく、落ち着いたお祭りだった。
BGMも含めて。



こちらは仙台のだるまで、鮭太郎いわく「青いのが特徴。あと最初から目が入っている」とのことだった。
いや、青いとか目がどうとかより、眉毛とヒゲが特徴なんじゃないのか。
群馬出身のゆりあは「高崎のだるまと違う!」と驚いていた。


祭りの楽しみ方はおとなしいけど、だるまは激しいな、仙台。

君に輝く

夏の甲子園が始まった。
なんだか自分の気持がそれどころじゃなかったし、コロナ禍で、楽しみにしていた入場行進も各校のキャプテンだけだった。
でも、いざ始まると、甲子園にお客さんがたくさんいて、ブラスバンドチアリーダーの応援があって、「ああ、少しだけ、いつもの夏が戻って来た」という気持ちになる。


開会式の選手宣誓は横浜高校のキャプテンで、声を張り上げず語る都会の子タイプ。なんだかもう、横浜高校のユニフォームが懐かしい気持ち。

2015年夏 藤平くん(楽天


始球式は元ハンカチ王子斎藤佑樹くんだった。
彼が輝いていた夏、私は駒大苫小牧を応援していたから、彼のことはそんなに良く思っていなかった。
「ハンカチなんて出しちゃって、まあ、都会のおぼっちゃんね」なんて思っていた。彼が大学に進んだ際も、東都リーグを見に行ったら、雨で順延した六大学の試合に巻き込まれたりして「おのれ、ハンカチ野郎!」と憎々しく思っていた。


彼のことをやっと「この人すごいな」と思えたのは、彼がプロに入って、ずっと1軍で活躍できず、だんだん忘れられおもちゃにされ、毎年「戦力外候補」と言われだした頃だ。
18歳で、あれだけ世の中に持ち上げられチヤホヤされ、大騒ぎされ、スキャンダルを面白おかしく報道され、プロで結果が出ないと今度は失笑され、バカにされ。世間に消費され、骨までしゃぶられた子だ。


並の神経だったら精神を病んだって、自殺していたっておかしくもないし、何かの犯罪に手を染めてしまったって同情せざるを得ない。
でも彼はそんなことにはならなかった。
じっと世間の好き勝手な評判を飲み込んで耐えてきた。
野球を嫌いになって離れていたっておかしくないのに、始球式できれいなストライクを投げるから、ああ、さすがだな、とあの夏を思い出した。


今日、ネットニュースで日本郵便の公式サイトに斎藤佑樹くんから球児への手紙が掲載されているというのを知った。

この夏にすべてをかける君へ



暑い日が続きますが、体調など崩していないでしょうか。


体格も投げかたも似ている、そして夢が叶うことを1ミリも疑っていない君と出会ったときから、僕はずっと、16年前の自分を重ねていました。その夢は、きっと叶うよ。とは、僕は言いません。勝負はわからないから。おなじ夢を持った人たちのぶつかりあいだから。ただ、今のまっすぐな君のまま、どうかこの夏のマウンドに立ち続けてください。これから先、グランドでもグランド以外でも、君をいろんな出来事が待ち受けています。僕のように、不安だらけの時期を過ごし、挫折を味わうこともあるかもしれません。それでもなんとか前を向くために必要なもの。それは、記憶だと思います。過去の栄光、だなんて言われることもあるけれど。最後まで闘い抜いた記憶は、未来を生きる大きな力になります。


なんて、大舞台がすぐそこだってときに、先の話なんてされたくないか。この夏、いちばん速い球を投げるのは、君じゃない。いちばん熱い球を投げるのが、いちばん強い球を投げるのが、なんだかいちばん凄い球を投げるのが、君であってほしいと思っています。今から君の過ごす夏が、君を一生奮い立たせる夏になりますように。



よし、 頑張れ。



2022夏 斎藤佑樹


なんて素晴らしい手紙だろうか。
挫折を味わった中で「あの夏の記憶」があったから君は腐らず生きてこれたんだな。
きれいごとで励ますだけじゃない、こんな手紙を書けるのは、あの夏、輝いていた君なんだな。
そして、その輝きの強さの分、影の濃さもずっと味わった君だけに書ける手紙だな。
君はすごい人間だな。


あの夏の栄冠は、まだずっと君の上に輝いているんだな。

夜のピクニック

昨日は仙台の七夕花火大会で、会社帰りに友人鮭太郎とその同僚、あっちゃん、ゆりあと一緒に見に行った。
花火を見る場所は東北大学のグラウンドで、仙台駅から地下鉄で3駅ほど先にある。
広大な敷地に、すごいソーシャルディスタンスで椅子が置かれ、記念式典みたいな有様だった。



海や川辺であがる花火じゃなくて陸地であがる花火大会は久々。
コロナ禍なので、出店などもなく、飲酒禁止なので、ノンアルコールビールやおせんべいでお行儀よく花火鑑賞をして帰る。


帰り道、「地下鉄は大変混雑しています。青葉通、広瀬通、定禅寺通をご利用ください」というアナウンスがひっきりなしに流れる。仙台育ちの鮭太郎が最初から「帰りは混むからちょっと歩いて、どっかでタクシー乗ろうよ」なんて言っていたので、ふらふらと人の波に乗って歩き出した。


不思議なのだけど、目の中に飛び込んでくるような花火を見ているときよりも、たくさんの人の流れに乗って夜道を歩いているときのほうがなんだかずっと「ああ、お祭りだな、夏だな」という気持ちになった。
車は通行止めになっているので、普段は通れない車道をおしゃべりしながら歩いて行く。
それはまるで夜のピクニックみたい。



土地勘がないので、どこを歩いているのか全くわからなかったけど、街なかに出ると、公園で若い子が楽しそうにしていたり、屋台が出てにぎわっていたりするので、余計にお祭り気分が高まった。



警察に誘導されながら夜の車道をたくさんの人が延々と歩く光景は、なにかの災害の避難みたいにも見える。写真だけ見せて「災害で、電車止まってさ」と言ったら災害みたいに見えるだろう。でも七夕まつりだ。
歩く光景は同じでも気持ちはまったく違うんだなあ、と不思議な「非日常」を味わう。


鮭太郎やあっちゃんの提案で、国分町で美味しい肉まんを買って食べ歩きしたり、アーケードを冷やかしたりしながら、延々と、ついには仙台駅まで歩いてしまった。

高校球児も楽しそうに歩いていた。


軽く5,6kmは歩いたと思う。
なんだか高校時代みたいだった。
高校時代、初詣のために夜中みんなで集まって、西所沢の駅から狭山湖不動尊まで延々歩いて、最後には所沢のマクドナルドまで行ったんだっけ。でも当時好きだった先輩が一緒だったから、嬉しくて楽しくて、非日常で、ウキウキしながら平気でどんどん歩いていたんだよな。お正月の寒空の下を。
まるであの時みたい。


鮭太郎は帰宅後、同居彼氏に「は?歩いたの?マジで?高校生かよ」と言われたらしい。
そうよね。そういうの高校生がやることよね。


でもやってしまったのだ!青春ぽいことを。