そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

君に輝く

夏の甲子園が始まった。
なんだか自分の気持がそれどころじゃなかったし、コロナ禍で、楽しみにしていた入場行進も各校のキャプテンだけだった。
でも、いざ始まると、甲子園にお客さんがたくさんいて、ブラスバンドチアリーダーの応援があって、「ああ、少しだけ、いつもの夏が戻って来た」という気持ちになる。


開会式の選手宣誓は横浜高校のキャプテンで、声を張り上げず語る都会の子タイプ。なんだかもう、横浜高校のユニフォームが懐かしい気持ち。

2015年夏 藤平くん(楽天


始球式は元ハンカチ王子斎藤佑樹くんだった。
彼が輝いていた夏、私は駒大苫小牧を応援していたから、彼のことはそんなに良く思っていなかった。
「ハンカチなんて出しちゃって、まあ、都会のおぼっちゃんね」なんて思っていた。彼が大学に進んだ際も、東都リーグを見に行ったら、雨で順延した六大学の試合に巻き込まれたりして「おのれ、ハンカチ野郎!」と憎々しく思っていた。


彼のことをやっと「この人すごいな」と思えたのは、彼がプロに入って、ずっと1軍で活躍できず、だんだん忘れられおもちゃにされ、毎年「戦力外候補」と言われだした頃だ。
18歳で、あれだけ世の中に持ち上げられチヤホヤされ、大騒ぎされ、スキャンダルを面白おかしく報道され、プロで結果が出ないと今度は失笑され、バカにされ。世間に消費され、骨までしゃぶられた子だ。


並の神経だったら精神を病んだって、自殺していたっておかしくもないし、何かの犯罪に手を染めてしまったって同情せざるを得ない。
でも彼はそんなことにはならなかった。
じっと世間の好き勝手な評判を飲み込んで耐えてきた。
野球を嫌いになって離れていたっておかしくないのに、始球式できれいなストライクを投げるから、ああ、さすがだな、とあの夏を思い出した。


今日、ネットニュースで日本郵便の公式サイトに斎藤佑樹くんから球児への手紙が掲載されているというのを知った。

この夏にすべてをかける君へ



暑い日が続きますが、体調など崩していないでしょうか。


体格も投げかたも似ている、そして夢が叶うことを1ミリも疑っていない君と出会ったときから、僕はずっと、16年前の自分を重ねていました。その夢は、きっと叶うよ。とは、僕は言いません。勝負はわからないから。おなじ夢を持った人たちのぶつかりあいだから。ただ、今のまっすぐな君のまま、どうかこの夏のマウンドに立ち続けてください。これから先、グランドでもグランド以外でも、君をいろんな出来事が待ち受けています。僕のように、不安だらけの時期を過ごし、挫折を味わうこともあるかもしれません。それでもなんとか前を向くために必要なもの。それは、記憶だと思います。過去の栄光、だなんて言われることもあるけれど。最後まで闘い抜いた記憶は、未来を生きる大きな力になります。


なんて、大舞台がすぐそこだってときに、先の話なんてされたくないか。この夏、いちばん速い球を投げるのは、君じゃない。いちばん熱い球を投げるのが、いちばん強い球を投げるのが、なんだかいちばん凄い球を投げるのが、君であってほしいと思っています。今から君の過ごす夏が、君を一生奮い立たせる夏になりますように。



よし、 頑張れ。



2022夏 斎藤佑樹


なんて素晴らしい手紙だろうか。
挫折を味わった中で「あの夏の記憶」があったから君は腐らず生きてこれたんだな。
きれいごとで励ますだけじゃない、こんな手紙を書けるのは、あの夏、輝いていた君なんだな。
そして、その輝きの強さの分、影の濃さもずっと味わった君だけに書ける手紙だな。
君はすごい人間だな。


あの夏の栄冠は、まだずっと君の上に輝いているんだな。