そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

大人の食べ物

10年くらい前に読んでからずっと頭に残り続けている文章がある。

コロナ・ブックスから出ている「きのこブック」と言う本の中の文章だ。
この本の前半は、たくさんのきのこの説明が美しい写真とともに載せられており、後半は様々な人物がきのこについて語らうページだ。
この後半部分に宗教人類学者 植島啓司によって書かれた「きのことセックス」というエッセイが載っている。
抜粋すると下記の通り

ついぼくが軽い気持ちで「実は、ぼくはきのこと貝だけはどうしても食べられなくて…」と言うと、そこで信じられないリアクションが起こった。まず、ほとんど間髪を置かず、隣の理科系の教授が「きのこと貝が食べられない人はセックスが下手なんですね」とつぶやいた。」


えっ、と思ったが、すぐには声がでない。
救いを求めるように編集者S氏の様子をうかがうと、彼もくるっと振り返って「その通りです。だから、そういう人はSMに走ったりするらしいんです」と言う。


その教授に言わせると、きのこと貝はもっとも味が複雑で、その繊細な味のよじれ具合の一つ一つを脳が記憶して「おいしい」と理解するとのことらしかった。しかも、それはセックスを味わう回路とまったく同一だというのである。要するに、きのこと貝が食べられないというのは、どうしようもなく単純で感性のニブイ人間だというのだった。

私はきのこは好きだが、貝は苦手だ。食べられるのはせいぜいアサリ、しじみ、ハマグリまでだ。そこから先のホタテやらサザエやらはちょっと…。
きっと私もダメなんだろう。お粗末様なことだ。


この話、かなり強いインパクトだったので、あちこちでいろんな人に伝えているが、その際は直接的な表現は避け「脳が大人じゃないと、きのこと貝は食べられないんですってー」などと言っている。
なので、久々にこの本を読んだら、そうか、こんなに直接的だったか、と再度驚いた。

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2016年 築地市場にて。

だいたいが、貝ときのこの文化について調べたらエロの話は避けられないのだ。日本に限らず海外のエピソードでも。


確かに形状的に性器を連想させるものだろう。
以前に魚関係の仕事についていた友人に築地に連れて行ってもらった際、「当時はホントよく、いろんな業者のおじさんたちから貝に関する下ネタセクハラをされたもんだったわー。特にこのタイラ貝ね。毛といい、わかる?」とタイラ貝を指さされ、朝からどぎまぎしたもんだった。


見た目的な意味でも、味覚においても、貝ときのこは食す人間を選ぶ「大人の食べ物」なのだろう。
そう言えば、弟も子供の頃はしいたけが大嫌いだったが、大人になって好きになったようだ。あの子もいろんな意味で大人になったのだな。

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2016年 築地場外

私だって、サザエを殻からにゅるっと出して、「この苦味がねー」とか言ってみたいが、まず見た目から無理だ。
ホタテのびらびらもバイ貝もエスカルゴもダメだ。
毎年冬に、食わず嫌いはよくない、と一度は牡蠣にチャレンジするが、一口齧って「ああ、今年もまたダメでした」と思う。


私の脳はいつまでもたっても、まるであれを「おいしい」と認識しない。
そのうちSMに走るのかしら。