そういえば

横浜→仙台へ移住したばかり。

わたしのお家

片付けも落ち着いたヒマにまかせて、前の家をネット検索してみたら、もう賃貸の募集が始まっていた。


11年住んだ私のお家。


窓が、道路と小川を越える橋に面していて、子どもたちの通学路だった。
橋から家が丸見えのせいか、橋の街灯が眩しいせいか、川の音が夜通しずっと聞こえるせいか、はたまた1階の中華食材屋さんから餃子の匂いがしたり、中国人が大声で電話をしたり、ゴキブリも上がってくるせいか、家賃は格安だった。


それらすべての条件が私はそれほど気にならず、むしろあのお家が大好きだった。
スーパーが近くて便利で、なんだかおおらかな感じで、台所が広くて、帰ってくるとホッとした。
川の音が聞こえたり、通学中の子どもたちが猫に話しかけてくれたり、川向うの公園や学校の音がしたりもした。


だから、出るときには本当にあの家に「ありがとう」と思ったし、「次に住む人がいい人だといいね」とも思った。



そんな「私の大好きなお家」の募集広告を見たら、あらびっくり、敷金礼金ゼロにした分、家賃が上乗せされて、おまけになにかの緊急対応サービスの加入必須で、短期解約の違約金も出ることになっていた。
今の家を借りる時、緊急サービスだの短期解約違約金だの言われて「なんなの?」と不審に思っていたが、これは今の賃貸業界の流れだったのだなあ。
それにしても、月8千円も値上げするのか、築年数は経っているのに。


不動産会社の募集広告で見る「私のお家」はなんだかもう、「私のお家」の顔じゃなかった。
つい10日前までそこに住んでいて、そのスペースには私の冷蔵庫やテーブルがあったのになあ。大好きなお家だったのになあ。


引っ越してきた日、猫は新しい家に怯えて、前の家から宅急便で送ったダンボールの中に詰められたカーテンやタオルケットの「お家の匂い」の中に潜り込んで震えていた。
でも今やこの有様だ。




私も、すっかり荷物が片付いたら「ああ、ここがこれからの私のお家だな」という気持ちになって、前のお家の募集広告を不思議な気持ちで眺めている。



それでも夕方、友人の車で田んぼの中を通ってお家に帰る時、まだ不安で切なくて心細い気持ちになってもいる。
そのうち、この田んぼを見て「ああ、帰ってきたなあ」と思うんだろうか。
猫も私も、今よりももっと「ここが私達のお家」と実感するようになったら。